初めて健さんが私の視界に入ったのは、
今から15年前。
パソコンを打つ後ろ姿でした。
私たちは同じ会社で、
健さんは、隣の部署だったけど、
席は、通路を挟んで私の斜め後ろでした。
後ろ姿だけだったけど、
なんとなく氣になっていました。
*
そして、そのときは訪れました。
お昼休み。
健さんの横を通りぎたときのことです。
健さんは、
10本入りの麩菓子の袋を持って
むしゃむしゃと食べていたのです。
当時、健さんは42歳。
いい大人が麩菓子の袋を抱えて
むしゃむしゃと食べている光景が、
めちゃくちゃ面白くて
「麩菓子たべてるぅーーーっ!驚」
と、大声をあげてしまいました。
フロア中に響き渡るような
バカデカイ声で。
それでも、
健さんは一切動じることなく、
「食べる~?」
って、表情ひとつ変えず
麩菓子の袋を私に向けて言いました。
「いえ、いいです。スミマセン・・・」
と、言って私はその場を去りました。
でも、しっかりと見ました。
左手の薬指の指輪を。
廊下を歩きながら、
「なぁ~んだ。結婚してんだ。
そりゃそうだよね~」
と、少し残念に思った次の瞬間!
健さんと私の生活している映像が
脳裏に一瞬だけ浮かんだんです。
そして、
「私、どうしてこの人と結婚していないんだろう?」
って、数秒間
ぼ~っと考えていました。
ハッと我に返って、
その映像はなかったことにしました。
私だって別の人と結婚していたし
まだ2年目で新婚だったし
夫婦仲はよかったし。
だから、さっき脳裏に浮かんだ映像が
まさか現実になるなんて
想像もしませんでした。
でも、ここから泥沼の12年が
始まっていくのです。
続きはまたそのうち
氣が向いたら書きます。